「野澤アテネくーん」。こう呼ばれると片手を高々と挙げ「ハイッ!」と元気よくお返事。お目めをクリクリさせて直立する姿が愛らしくてユーモラスなアテネくんは、2歳5カ月(取材時)の男の子です。皮膚がめくれ上がってジュクジュクだった顔、かゆみが目いっぱい詰まっているかのように、はちきれそうにむくんでいた足、ごわついて深いしわが走っていた背中…。かつては、ママに抱っこされてかゆみにじっと耐えていた、全身アトピーの赤ちゃんでした。強く出ていたその症状は、今は見る影もなく、また、「じっとしている」なんてとてもとても……という、〝超.がつくほど元気に成長しています。実は、お父さま・昭夫さんもオムバス式の自宅温泉湯治でアトピーを克服した(2001年7月『湯治の声』掲載)経験者。温泉湯治でアトピー退散を果たしている"親子二代"なのです。
パパは湯治のよさを知っていたけれど…

2005年3月
顔全体が滲出液で覆われジュクジュクした状態だった。
2005年5月顔の皮膚がめくれ上がっている。掻き傷を作らせないように毎日爪切りをした。
「10年薬を使い続けて、それを断って湯治を始めた自分としては、アトピー治療で病院に行くのは大反対でした」という昭夫さんも、陽子さんが迷うこと自体は十分理解できるものでした。病院の治療方針を尋ねれば、「即、入院して、保湿剤を塗り、掻けないように手足を固定して1週間寝かせる」という、かなり酷なやり方。片やオムバスは「症状よりもお母さまの不安のほうが強いと感じました」(松澤博一相談員/日本オムバス神奈川)と慌てる様子はありませんでした。
「迷いました。この子が将来、普通に暮らしていく中で、少し気をつければいい程度のアレルギーであればいい んですが、そうかどうかもわからないし。ただ、ステロイドで症状を抑えこもうと今決めるとしたら、それは本人の意志ではなくて私の意志。ステロイドをいつか断って、症状が噴き出してしまうとしたら、今、ステロイドを使うと決める親の責任は大きいと思いました。松澤さんと話したことで、今のうちにこの子の健康状態をいい方向に改善していくことができるのであれば、そちらを選択したいと思いました」。
結局、ステロイドという対症療法ではなく、オムバスの入浴法を実践して、代謝を促し自然治癒力を高めて、もともとの体力を底上げしていく方法を選択。陽子さんの決断に、わが子を自分の二の舞にしなくて済んだ昭夫さんはひと安心。これからは、湯治生活できっと生まれてくる不安を解消するための役割を担おうと決心したそうです。
葛藤だらけの毎日を経て数カ月で良くなってきた実感

2005年6月顔のジュクジユクはだいぶおさまる。足はまだまだ真っ赤。背中には深いシワが走る。
ご両親に「自然治癒力」への理解を説いたのは他でもない昭夫さんです。ご自身の体験からアトピーを治す〝正しい方法.を説明。「自然治癒力というものへの認識を両親はすでに持っていて、理解がとても早か ったです」(昭夫さん)
そうともなれば勇気百倍。ご一家は、源泉を使うやり方を選び、ひたすら湯治に打ち込む日々に突入!希望に燃えて前向き一色で突き進められるはずでしたが…。「温泉に入っているときはまだいい子にしているんですが、上がると空気に触れて痛いのでしょう、泣き叫ぶんです」(陽子さん)

「自分がかつて湯治していなかったら、アテネはステロイド漬けになっていたかと思うと、僕にオムバスさんとの関わりがあって本当によかったと思います。いつかアテネにニキビができる日を楽しみにしたいです(笑)」(お父さま・昭夫さん)
前述のように、抱っこからおろそうとするとアテネくんは泣くので、ベビーバスに入れるのではなく、ママが抱っこしながら大人の浴槽で湯治しています。上がると、アテネくんが裸の状態を少しでも短くしなきゃと焦ってスキンケアをして服を着せる陽子さん、寒くても自分のことはいつも後回しでした。湯治するときは、入浴の準備から服を着せるまで、1回につき1時間半.2時間はかかり、それを朝晩2回、夏は3回のときもあったのです。毎回のお風呂上りだけでなく、夜もまた大変。かゆみで寝られないアテネくんは、泣くことでしかつらさを訴えられません。掻いて血だらけになって叫んでいる状態に。それが毎晩で、しかも、途切れ途切れにしかとれない睡眠ですから数時間おきに。そんなこんなが、初めての湯治、初めての育児に降り注いでくるのですから何においても心配で大きく構える余裕は陽子さんにはとてもありませんでした。こんなに激しくつらさを訴えているわが子を目の前にして、「今、この瞬間だけでもステロイドを使って楽にしてあげるほうがいいんじゃないか。私はこの子にとって最善のことが果たしてできているんだろうか」と、葛藤が抑えきれず胸が締め付けられていく毎日。焦るような、迷うような、いつも平気と構えられない苦しみを抱きながらも、ご実家では「湯治のリーダー役」も担います。全面的に協力してくれているご両親からも見かねたように「ねぇ、少しだけなら薬を…」という言葉が出たときもあったそう。心のなかは葛藤だらけ。オムバスへ電話をし、メールをし、煮詰まる気もちをフーッとクールダウンさせていっていたのです。
2005年7月足にはまだきついかゆみが残るが、他の部分はかなりよくなってきた。掻き壊し防止に手袋と長袖を着せていた。
「そういうこと言ってもらえるだけで安心できて励まされるんですよね」(陽子さん)
夫からも、相談員からも「今していることが最善の策」との言葉をもらって安心でき、理屈ではわかっていたはずの陽子さんですが、「このかゆみをどうにかして」と親に訴えるように泣く、自分では何もできない幼子の姿に不安はどうしても消せなかったようです。しかし、開始から1カ月でジュクジュクがなんとなく減ってきて、2カ月で足の裏にもちもち感が出てきたことで「治る!」確信が得られるようになり、そこから不安は影を潜めています。
オムバスの活水器を設置アテネくん、おかえりなさい
実家での源泉湯治を数カ月続け迎えた夏、ジュクジュクもかさかさも減り、そろそろ自宅に戻ることに。お風呂環境を整えるために活水器を取り付け、昭夫さんは、陽子さんとアテネくんが戻ってくるのをワクワクして待っていました。
2005年12月かゆがることは多いが、掻き壊しから炎症になることはもうなくなっていた。
「活水器を通した水のお風呂はピリピリしませんね。実家でずっと源泉に入っていたアテネも自宅のお風呂を嫌がらずに入りました」(陽子さん)。「活水器をつけてからは、水がおいしいのもいいですね。田舎なんで水はもともとおいしいんですが、さらにおいしくなったのがわかりました」(昭夫さん)。 「そうそう。それと、台所で洗い物をしていても、手あれが減ったの!」(陽子さん)
食物アレルギーとスキンケア
「でも、落ち着きを取り戻してから松澤さんに電話しました。パニックのままだときちんと聞きたいことも聞けないですし、この子が泣き止んでからでないと聞こえないというのもあるので」(陽子さん)。「あまりにバーッと出たものに関しては、それを無理に慣らしていく必要はありません。徐々に食べていけるようになればいいと思います」(松澤相談員)。
卵と牛乳に関しても「いずれ食べられるようになればいい」との長い目で、今もそのままでは食べさせていないのだとか。とはいえお菓子をはじめ加工品ではすでに口にしているようです。食事と並んで陽子さんが気にしたことのもう1つはスキンケアでした。お風呂上りになるべく手早くローションやオイルを塗る、しかもたっぷりと。「状態がよくなってきてからも、スキンケアとしての塗る量は多かったようです。それだけ一生懸命なんだということなんですが、必要以上に塗ることで自分の皮脂が出てくるのを妨げてしまうかもしれません。油分過多になってしまうと汗を閉じ込めてしまう恐れがあります」(松澤相談員)
ちょっと手を抜くとまだ不安。そんな思いをしていた時期が長かったそうで、(過多な部分)は「予防」の意味もあったよう。どうやらご自身でも認める心配性、これは性格のようです。
1年でうんと回復したアテネくんは、その年の5月には靴下を脱いで遊ぶようになりました。なかなか靴下が脱げなかったのは、足首がすぐにかさつく傾向にあったからなのだとか。靴下が脱げたその頃を境に、さらにもう一段階、ぐっときれいになっていきました。
油断大敵パパに警告?

2006年8月
海水がしみることもなく、はじめての海を満喫。
「なんかキョロキョロして、いつも楽しみを探しているようなんです(笑)」(陽子さん)。
これしたい!狙いを定めたら猛ダッシュ。「そういえばまだ歩けない頃から好奇心いっぱいにキョロキョロした顔をしてましたね(笑)」と、陽子さんは続けます。歩けるようになったとたんに走るようになったアテネくん。「状態がつらいときは、大人の場合もそうですが、寝て食べてお風呂に入ってで精一杯。でもその時期が過ぎたら運動量を増やすことが回復につながる大きなポイントになります。
アテネくんの場合はそうして自然に運動を生活に取り入れたことが功を奏しましたね」(松澤相談員)
今回、アテネくんの取材で初めて九州HRCを訪ねたご一家は、「この子の症状が最悪なときに本当は来たかった」と思っていらしたのだとか。もろもろの都合でそれは無理だったようですが、心に余裕をもってHRCを満喫するのもまたいいもの。「ここのお湯、トロ〜ンとしていて、肌の上にもう1枚肌ができたような感触ですね!」(陽子さん)「私なんて、昨日は1時間も入りました。そうしたらお腹が空いて。ここはご飯もおいしいですよね」(昭夫さん)。ご一家そろって、HRCのいいお湯といい食事を心ゆくまで楽しんでおられるようです。
「おーい、みんなー!」。知らない人たちの輪の中に入っても、アテネくんにとっては誰でもが〝仲間〞。
大人も子どももアテネくんワールドに引き込まれ、なんだか楽しく明るくなっていきます。ママの腕の中だけでじっとしていたあの赤ちゃんが、今ではつるつる肌に元気をみなぎらせています。本当
によかったですね。






