回復の兆しが見えたのは湯治開始から3カ月たった頃。頬から顎、脇の下、耳の回りにはまだ強い炎症がある。かゆみは依然として強く、掻く手が止まらない。

氷のような手足
なぜ汗が出ないの?


 薬害を受けていなくても、陽奈乃ちゃんの状態はどこまでも落ち込んでいきます。体の中の機能がうまく噛み合わないために、免疫反応が誤作動。かゆみや炎症などのアレルギー症状となって噴き出してくるのです。
「陽奈乃は汗が出なかったんですよ。大人は汗だくなのに、本人は涼しい顔してるんです。お風呂から上がると、すぐに手足が氷のように冷たくなっちゃう。温めてあげなきゃいけないんだなぁと思って、時計を見ながら3時間おきに入れてました」
 実は、奈生さんが長年悩まされてきたのが冷え性。健治さんにも、思い当たることがあるといいます。
「子どものとき喘息を持ってて、薬も使ってたんですけど、あの頃、体の冷えがすごかったんですよ」
 体の異常な冷えは、自律神経の乱れを表すバロメーター。自律神経は、内分泌や免疫機能と密接に連携しています。アトピーや喘息のような免疫機能の誤作動と、ひとつながりであることはいうまでもありません。
「湯治を始めてからの方が、症状が出てきた感じで、どんどんひどくなっていきました」
 じわじわと出てくるはずの症状が、温泉の成分や温熱効果によって、一気に引き出されてきたのでしょう。炎症やかゆみが一時的に強まっても、これは悪化ではありません。陽奈乃ちゃんの体機能が、正常なバランスを整えようと、猛烈に働き始めた証拠なのです。

かゆがるわが子に
何もしてやれない


 鮫肌だった足は、湯治開始から1週間でスベスベになりましたが、上半身の炎症は強くなる一方……。
「まだ話すこともできないのに、掻くことだけは必死で、見てるのがつらかったです」と健治さん。
 ガーゼのミトンを付けた手で、届く限りの顔やおなかを掻き、届かない部分は一生懸命布団にこすりつける陽奈乃ちゃん。どんなに頑張っても止まらないかゆみに、できるのは泣くことだけです。
「気がつくともう、こぶしで耳の辺りをグリグリと。かゆくてかゆくて、どうしたらいいか分からない感じで、泣きながらこすってるんです。代わってあげることもできないし、子どもだから寝かせてあげたいのに、ちょっとした物音で起きちゃうんです。どうしてあげることもできないのが、本当につらくて……」
 仕事に響かないよう、健治さんの寝室は別に。血と滲出液と涙でグチャグチャの陽奈乃ちゃんを抱きしめて、奈生さんは眠れない夜が続きました。
 睡眠時間は1日1時間か2時間。睡眠不足と疲労で、もうろうとしながら湯治と家事をこなす毎日です。


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