「卒業」まで秒読みの段階。朝晩の湯治、仕事、家事。忙しさは湯治前と変わらないが、かゆみや発疹、炎症はどこにもない。色素沈着が消えるのも時間の問題。


表情が穏やかになり
指先には指紋が

 復職は予定通 りの3カ月後。かゆみも炎症も傷跡も薄れて職場に戻ったやすこさんを、同僚たちの意外な反応が迎えます。
「職場に戻ったその日に、『あれ? 顔が違う!』『目がすっごい優しい』とかって。前はそんな怖い目してたの? って聞いたら、『うん、目が三角になってた』って(笑い)」

 毎日顔を合わせている満さんも、やすこさんの変化に気付いていました。
「表情が変わってきたっていうか、顔つきが穏やかになりましたよね。食事も、つくらなくていいって言えばつくらなくなりましたし、随分変わったと思いますよ」(満さん)

 誰に責められるわけでもないのに、手を抜くことができなかった。仕事も家事も完璧にこなそうと張りつめて生きてきた。やすこさん自身、休職期間はそんな自分に気付く転機になったといいます。
「前はわからなかったんですけど、いざ休んでみると、かなり自分を抑えて、責任を感じながら仕事をしてたみたい。会社に戻ったら、何もかも全然違う世界に見えましたよ」

 同じ頃、もう一つの発見は指紋が出てきたこと。子どもの頃から手指の皮膚がボロボロだったため、やすこさんは自分の指紋を見たことがなかったのです。
「指紋がなかった頃は、仕事中によく物を落っことすんですよ。オッチョコチョイだから落とすのかと思ってたんですけど、指紋ができてからは落とさなくなったんです。指紋って、滑り止めなんだなぁなんて(笑い)」

本物の健康は
生活の中にあった


 朝晩の湯治を習慣に、復職後の経過は極めて順調。湯治開始から8カ月たった98年11月には、段階を踏んで温泉を薄めていきます。一時は爪でえぐるほど掻き壊した傷跡が色素沈着になり、時間とともに消えていくのを待つばかり。
「調子が悪いときは薬でごまかして、ちょっと体調が良ければすぐ不摂生。お風呂もほとんど入らなかったし、年がら年中シャワーで済ませてた。そんな生活が悪いって自覚してなかったし、変えようと思ったこともなかったんです。そんな生活を改善できたことが、すごくうれしいんですよね」(やすこさん)

 そう振り返る笑顔を、本物の健康が輝かせています。家事も仕事も朝晩の入浴もという忙しさは相変わらず。そこにペアで飼ったミニチュアダックスフンドの世話が増えても大丈夫。協力態勢はバッチリです。
「彼じゃなかったら、たぶん湯治も続けられなかったかもわからない」という素直な感謝の言葉に、「だって、困るじゃないですか、いなくなっちゃったら、収入が減るんでね(笑い)」と大照れの満さん。何だか、お二人を包む幸せのオーラが見えるようでした。


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