睡眠と食事を優先させる毎日を続け、炎症が徐々に退いてくる実感を得ていた頃。肌の色も良くなっている。この時点で、症状は首周りと顔だけに限られてくるようになった。

強くなる。考え方を変える
ことから始まる


洋子さんが選んだ"したいこと"は、年末に大きな舞台が用意された「第九」。知り合いが一人もいない一般公募の合唱団の練習に参加するといった自身の大胆さを驚き、それすら喜びとして捉えました。平成9年8月から始まった練習に、この先の不安を持ち込むことなく没頭。アトピーのことを考えないで過ごす時間が多くなっていきました。
「一日に人間の考える量が一定だとしますよね。家の中だけにいると、細かいことまでミリ単位で考えないといけない。外に出ると、いろんな人と知り合って行動範囲も広くなる。キロメートルの単位に変わります。考えなくてもいいようなミリの話はすっ飛ばす。それでいいんです」(阿久津カウンセラー)

「これまでは深く人づきあいをしてこなかったから、何か始めても、場まで楽しめていませんでした。でもこのときは、人と関わることが、以前より意味をもってできるようになっていました。行動範囲を広げたことで、他の人はつまらないことにクヨクヨしないで過ごしていることにも気づきました。だって人って忘れ物をしても笑って済ませているんですよね。そうなんやーって、そんなことも大発見です(笑い)。強くなるということは、"考え方を変える"ことから始まると学びました」

その年の秋には第九の練習に並行してアルバイトも始めています。1日3時間半、週3日と、無理のない仕事を見つけ、「仕事=楽しくないもの」の図式を初めて覆した良いアルバイトだったとか。家でも無理せず湯治をこなし、ほどよく疲労する楽しい毎日は、お母さんの文句に耳を貸す間もなく安らかな眠りの世界を用意してくれました。両親の顔色を窺うだけの自分から、自分を楽しめる洋子さんに変わっていく。文字で書けばたやすく変身できたように映るかもしれませんが、こなしてきた一つひとつの道程には、計り知れないエネルギーが必要だったのです。
「悩みの塊から、少しずつ脱せた頃です。出口に向かう入り口に立った気がしていました」

気持ちを開けるようになると、自分の希望、手に入れたいものが見えてきたという洋子さん。待っているだけじゃなく、自ら行動することが、つまり自分を強くするのだと知ったのです。

年末の「第九」は大迫力のステージに。「フロイデ!」お腹の底から声を出し、合唱に没頭するその間、かゆみなど近寄る隙も到底ありません。輝き続けた数ヵ月の集大成の日、洋子さんはとびきりの輝きを放っていました。

その日を境に目標を失いガクッときては大変です。でも大丈夫。もう悩みの塊の人ではありませんから、仕事探しや自動車教習所通いと、次々にしたいことを始めています。アルバイト募集が特にされていなかったという「府民ホール」に電話をして、何か仕事はないですか?と、憧れの職場を見つけてアタック。見事採用になったそんな武勇伝も、以前の洋子さんでは考えられなかったことでした。

ただ楽しめることを見つけられたからといって、安直に生活すべてがバラ色に変わったわけではありません。外での気分の高揚を根こそぎ奪うほどの家のムードに、極端な気分の間を揺れ動く辛さもきっと味わったことでしょう。家庭の中に変化はなくても、その環境にただ苦しむだけではない人になれていたということ。ずっと肌もいい状態でした。


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